2013年11月16日

「吉野大夫」的ダメっぷり

 「後藤明生コレクション」の第2弾である「吉野大夫」は、軽井沢町追分宿(おいわけじゅく)を舞台にした小説です。
 むかしむかし、追分が宿場としてにぎわっていたころに実在した、と言われているものの、確かな記録もあるようでなく、いたのかいないのか、結局わからないのに、いたことにはなっている謎の遊女、吉野大夫について、父が調べようと思ったが、どうにも中途半端になってしまう。そしていつものように、あらぬ方向に興味がずれて、本題から離れて、という、題材も内容も、これが学校の宿題ならば先生に叱られてしまいそうな作品です。父のいいかげんな姿勢は作品の中だけのことではなく、実生活でもおんなじような生き方をしていたと思います。
 先日文芸誌「すばる」に発表されたいとうせいこうさんの小説「鼻に挟み撃ち」の中では、こんなふうに書かれています。
 「後藤明生は調べればわかる研究書の中の語句の意味について、とうとう『いまはその気もない』と言ってのける。調べる気はない、と。
 この一貫した『1人のまことに不精なシロウト』ぶりに、皆さん、わたしがどれだけ救われたことか」
 今回父の作品を電子書籍化するために読み直していく内に、私も父からこの精神性を受け継いでいたのかも、と思いあたりました。
 すなわち、物事は決着しないこと、調べ物は調べないのが常であること、提案はうやむやになる定めであること、など、我が家では当たり前だった流儀が社会では全く通用しないのだということを、私は社会人になって初めて知ったのだ、ということを思い出したのです。 出す企画には具体性が必要であるとか、決まった事案はやりとげるとか、情報は必ず裏をとるべきであるとか、今思えば当たり前のことなんですが、とても新鮮でした。それができるようになるまでに数年かかったように思います。全てを父のせいにするわけではありませんが、迷惑な話です。
 とはいえ、「吉野大夫」は娘である私にとっては、元気いっぱいに動き回る父の姿を鮮やかによみがえらせてくれる、なつかしくあたたかい作品です。父は闘病の末病院で亡くなりましたし、晩年は入院していない時期もそれほど動作が活発だとは言えませんでした。これまで父の記憶、というとやはり晩年の姿が真っ先に頭に浮かんでいたけれど、「吉野大夫」を読んだことによって、父がまだ若かった頃の記憶が先に出てきてくれるようになったことが、とても嬉しいのです。
元子
posted by アーリーバード・ブックス at 16:21| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年11月06日

早起き鳥の巣立ちまで

 「挟み撃ち」の電子書籍がリリースされて、1週間が過ぎました。
 応援ありがとうございます。
おかげさまで取材の依頼などもあり、ツイッターで嬉しいコメントをいただいたり、早起き鳥の目覚めはなかなか快調です。
 アーリーバード・ブックスは、3人で切り盛りしている、小さなレーベルです。もちろんそれぞれが他にも仕事をしています。
正直、不器用な私は、一度に色々なことを考えたり、動いたりすることができませんので、「電子書籍を作ろう」ということになったは良いが、果たしてやりとげられるのか、すごく不安でした。
それは、私以外のスタッフも多少の差はあれ、同様だったのではないかと思います。
しかし、「3人寄れば文殊の智恵」とはまさに、で、頭をつき合わせているうちに、卵はあたためられ、すくすくと育ち、ある朝早く、元気に飛び立ったのでした。(キンドルからの出版開始のお知らせは、本当に早朝だったのです)
 今回の電子書籍の出版への原動力となったのは、やはり、昨年夏、父の命日に発行された新刊「この人を見よ」だったのではないかと思います。本人が他界して10年以上がたっており、多くのファンがいるとは言っても流行作家ではなく、昨今の出版界の状況からして再録はともかく、新刊はありえないでしょう、と、家族は皆思っていました。実際、全集や選集の企画なども生まれては消え、の繰り返しでした。
 それがある日、幻戯書房という出版社の編集者から手紙が届き、そこからあっという間、数ヶ月後にはあの分厚い本ができあがったのです。
名だたる書店の平棚に積まれた「この人を見よ」を目にしたとき、涙がじわっときたのを憶えています。
 その幻戯書房で担当編集だった方に紹介されたのが、今回電子書籍を作るにあたり、全てを取り仕切ってくれた塚田さん。レーベルのスタッフです。
 なんでも幻戯書房の編集者と塚田さんは飲み屋で知り合ったらしく、もともと「この人を見よ」を自分で編集、発行したいという思いを抱いていた塚田さんは幻戯書房に先を越され、飲み屋で初対面の時は「ぬおー、お前か」といった感じだったらしいですが(かなり想像入ってます)、2人は意気投合し、塚田さんは電子書籍という新しい企画を携え、私に声をかけてくれた、というわけなのです。
 未完の小説が時を経て再び姿を現し、それを実現したエネルギーが源泉となって新たな流れを押し出していく。川が大好きな私は、そんなイメージを頭に描いては、幸福感に包まれます。(ちなみに特に好きな川は江戸川です。母校の近所にあったので)
 それは、父・後藤明生の外套のポケットに入ったまま忘れられていた時計が、急に動き出したかのようでもあります。チッチッチッ・・・
 この小さな音が途切れないよう、ネジを巻きつづけるのが、これからの私の役割なのかな、と思っています。
元子
posted by アーリーバード・ブックス at 12:27| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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