2014年03月05日

団地という宇宙

 今年に入ってから、父の作品の中でも初期の頃の中短編が続けてリリースされています。作品に共通するのは主人公の中年男、そして近郊の巨大な公団住宅群です。作品が書かれた頃私はまだ幼児でしたが、記憶はそれなりにあります。父は後に「団地を小説に書いた先駆けだ」と自称するようになりますが、わざわざそんなことを言いたくなるのももっともである、と思えるような、一種独特の住空間でした。団地全体が一つの町であり、全てがまかなえるように整っている。子供にとっては全世界だとも言える。しかし大人たちは、高倍率の抽選から幸運にも当たりを引き当て得た住処であるにもかかわらず、できるだけ早くどこかに移りたいと誰もが思っている、ということに気づいたのは幼稚園の年長の頃くらいだったでしょうか。小学校入学を前に、友達が続々と引っ越していきました。今改めて父の作品を読むと、あの時漠然と感じ取っていた大人たちの空気がページに充満しているように思えてきます。

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 当時の父は会社をやめ、小説家に転身する過渡期の状態で実にふらふらといい加減で、とても家庭を守るべき夫や父親像とはかけ離れた存在感を放っていたのも事実なのでしょうが、私自身は、この公団時代が父と2人だけで共有する思い出が最も多いように思っています。父は家にいる時間が長く、私もまた年齢的に一人歩きするには早かったため、自宅で遊ぶことも多かった時期でした。母なら許してはくれない砂糖入りほうじ茶を作ってくれたり、おふろではハンカチ大のタオルを湯船に浮かべ、お湯をくるっと包んで「くらげ」を作ってくれたり、手の小指だけを曲げる、という特技を身につけさせてくれたり(これはもともとできる人ももちろんいるようですが、本来はできない人が多いらしく、子供の頃はちょっと自慢でした)、自転車を狭い玄関で組み立てて、補助無しで乗れるまで練習に付き合ってくれたのも父でしたし、逆上がりができるようになったのも父のおかげだと思います。いつも下駄履きで、じゃっじゃっと公園の砂利を蹴散らしながら、時折野球のピッチングフォームのように腕を振り回し歩いていた姿が目に浮かびます。
 一方で父は、作品に描かれている通り、(ちょっと待て、あれはあくまで小説であり、その内容を作者の実生活と見るのはいかがなものか、という建前はもう面倒なので私は無視します。ただし、我が家に限っては、と一応言っておきましょう。)複雑な人間関係の渦中にいたり、怪しげな仕事を請け負ったり、とてもほめられたものではない大人の人生も同時に歩んでいたわけで、もちろん当時の私には知る由もありませんでしたが今自分も大人になって考えてみると、父はあの巨大な団地の内側と外側で違う人生を同時進行していたのではないでしょうか。父だけではなく、あの団地に住む大人たちは皆、そうだったのではないでしょうか。そう思わせる閉鎖的な世界観というか、内と外の断絶感が、あの団地にはありました。
 2011年に刊行された佐伯剛正さんという写真家の作品集「一九七二年 作家の肖像」という本に収録されている父の写真は、まさにあの団地に居た頃撮影されたものです。団地のすぐ外を通る道路にかかる歩道橋の上で、父はタバコを片手にたたずんでいます。写真の横には父が書いた文章が掲載されています。
 「・・・このニワトリ小屋のような金網は、また、何かの罪人を輸送するトラックの幌のようでもある。実さいは、わたしの住んでいる団地の真裏を走り抜けるバイパスにかかった歩道橋のおおいだ。つまり何ものかから何ものかへの出口であると同時に、入口でもある。そのような場処に置かれている人間は、すなわち何ものかと何ものかに挟み撃ちを喰っているということになるのだろう」
posted by アーリーバード・ブックス at 16:04| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月03日

トークショーのお知らせ「アミダクジ式ゴトウメイセイ文学談義vol.2」4月11日!


2月に第1回が開催され、大好評だったトークショーの2回目が、4月11日に開催されます。東京駅至近の小粋なブックカフェで、金曜日の夜のひと時を、ドリンク片手にご一緒しませんか?
ホストは第1回と同じく市川真人さん。気さくでフレンドリーなお人柄で、ゲストと軽妙な、同時に濃厚なトークを展開してくださいます。
ゲストはいとうせいこうさん。自ら「二代目後藤明生」を名乗り、昨年は「鼻に挟み撃ち」を発表、大きな話題となりました。
とにかく物知りで好奇心旺盛なお2人のトーク、お楽しみいただけること、保証いたします。ぜひいらしてくださいね!
チケットのご予約は、メールにて承ります。ご連絡おまちしております。元子

後藤明生・電子書籍コレクション刊行記念連続トークショー
アミダクジ式ゴトウメイセイ文学談義VOL.2

 
日程:4月11日(金) 開場18:30 開演19:00


▼会場:マルノウチリーディングスタイル
http://jptower-kitte.jp/shop/409.html


内容:1999年に没した「内向の世代」を代表する小説家・後藤明生−−。2013年11月、後藤明生の長女であり著作権継承者が主宰する「アーリーバード・ブックス」より、その代表作を集めた電子書籍の選集の刊行がスタートしました。アーリーバード・ブックスでは、「後藤明生・電子書籍コレクション」の刊行を記念し、その作品の魅力を新たな文脈で語り直し、新たな読者な読者に届けるべく、連続トークショーを開催いたします。生前、後藤から教えを受けた文芸評論家でTBSテレビ「王様のブランチ」のブック・コメンテーターとしてもおなじみの市川真人さんをホストに、毎回、後藤明生にゆかりのある小説家や評論家をゲストにお招きし、後藤作品の面白さを語り尽くします。
       

▼入場料:2000円(1ドリンク付き)

▼定員:60人
▼チケットの購入&予約方法について
 ▽チケットは現在、マルノウチリーディングスタイルの店頭で販売しております。
 
▽ご予約の方は、 http://form1.fc2.com/form/?id=904021 より登録いただくか、メール(earlybirdbooks@ampware.jp)にて、お名前・電話番号・参加人数をお知らせ下さい。
 
※確認作業にお時間をいただく場合がございます。
 ※当日お越しいただけなくても料金をいただく場合があります。


▼主催:アーリーバード・ブックス

▼問い合わせ先:マルノウチリーディングスタイル(電話03-6256-0830)


▼出演者プロフィール
▽市川真人(いちかわまこと):文芸評論家、「早稲田文学」編集主幹、早稲田大学文学学術院准教授。1971年、東京生まれ。著書に『芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか』。前田塁の名義で『小説の設計図』、『紙の本が亡びるとき?』がある。また、TBSテレビ「王様のブランチ」にブック・コメンテーターとして出演。


▽いとうせいこう:小説家、クリエーター。1961年、東京生まれ。大学卒業後、出版社の編集を経て、音楽や舞台、テレビなどで活躍。88年小説『ノーライフキング』でデビュー。99年『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞受賞。2013年『想像ラジオ』で第35回野間文芸新人賞受賞。後藤明生の『挟み撃ち』をトリビュートした「鼻に挟み撃ち」(すばる12月号)が第150回芥川龍之介賞候補に。近刊に『存在しない小説 』『未刊行小説集』がある。
posted by アーリーバード・ブックス at 11:33| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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